わが家の不登校長男は、予定が入ると腹痛や吐き気が強くなることがあります。
学校だけではありません。本人が楽しみにしているお出かけでも、前日や当日になると体調が崩れることがあります。行きたい気持ちはあるのに、出発時間が近づくにつれて「無理かも」となってしまう。
これ、最初は私も理解が難しかったんですよね。
そんなに身体が拒否するなら、
本当は行きたくないんじゃないの?
と思ったこともあります。でも長男を見ていると、どうもそう単純ではない。
児童精神科の先生から予期不安について教えてもらい、チャレンジの前後を数値化して振り返るようになってから、少しずつ見えてきたものがありました。
行きたい気持ちが強くても、不安も強いことがある。この2つは反対側にあるものではなく、同時に存在することがあるんです。
そもそも予期不安とは?
予期不安は、それ自体がひとつの病名ではありません。
これから起こるかもしれない出来事や身体症状を予測して、実際にはまだ何も起きていない段階から不安や緊張が高まる状態を指します。
またお腹が痛くなったらどうしよう。途中で吐き気が出たら?出先で帰りたくなったら?すぐに帰れなかったら?
そんな未来を予測しただけでも、身体は反応します。不安に伴って自律神経系などが働くことで、動悸、発汗、震え、息苦しさ、吐き気、腹部の不快感など、実際の身体症状が現れることがあります。
予期不安はパニック症の説明でよく登場します。パニック発作を経験した人が、また発作が起きるのではないかと心配することも予期不安のひとつです。ただ、予期不安があるからパニック症というわけではありません。さまざまな不安の問題で、まだ起きていない出来事への心配や身体的な警戒がみられます。
だから、気にしすぎて腹痛のような気がしている、という話でもありません。不安や緊張をきっかけとして、本当に身体症状が生じたり、もともとある症状が強くなったりすることがあります。
長男には過敏性腸症候群(IBS)の診断もある
長男の場合、予期不安を考えるうえで切り離せないのが、すでに診断されている過敏性腸症候群(IBS)です。
IBSは現在、腸と脳の相互作用が症状に関係する「腸脳相互作用の障害」のひとつとして捉えられています。脳と腸は別々に働いているわけではなく、神経系などを介して双方向に影響し合っています。
たとえば、また腹痛になったらどうしようと不安になることで、腸の働きや腹部の感覚に影響することがあります。反対に、お腹に少し違和感を感じたことで、また痛くなるかもしれないと警戒し、不安が高まることもあります。
IBSでは、通常ならそれほど気にならない腸からの刺激を強く感じることなども症状に関係すると考えられています。
長男を見ていると、こんな循環が起きているように感じることがあります。
・予定が入る
・また腹痛になったらどうしようと予測する
・不安や緊張が高まり、お腹にも意識が向く
・腹痛や便意、吐き気などを感じる
・やっぱり今回も症状が出た、とさらに不安になる
・次の予定では、もっと早い段階から警戒する
もちろん、長男の腹痛がすべてこの仕組みで起きていると証明できるわけではありません。ただ、本人の経過を見ていると、予期不安とIBSの症状が相互に影響していると考えると、しっくりくる部分がたくさんありました。

楽しみな予定でも腹痛になる理由が、少し分かった
この仕組みを知って、私の中で腑に落ちたことがあります。
長男は、学校だけで腹痛になるわけではありません。本人が楽しみにしているお出かけでも起こります。だから、腹痛が出る=本当は行きたくない、とは限らない。
行きたい気持ちはちゃんとある。でも同時に、またお腹が痛くなったらどうしようという不安もある。過去に何度も実際の腹痛を経験しているので、本人にとっては根拠のない心配でもありません。
予定が近づいて身体に注意が向く。少し違和感を感じる。症状が来そうだと感じて不安が高まる。さらに腹痛が強くなる。
本人の意思と身体の反応が一致しないことがある、と考えるようになってから、私は長男の「行きたい」を以前よりそのまま受け取れるようになりました。
キャンセルすると楽になる。でも「だから行かせる」でもない
予期不安について知っていく中で、もうひとつ気になったのが回避との関係です。
予定をキャンセルするとホッとして、不安や身体症状まで軽くなることがあります。不快な状態から逃れることでその行動が起こりやすくなることを「負の強化」と呼びます。回避によって不安が一時的に下がる経験が、長期的には回避を維持する要因になることがあります。
ただ、私はこれを知って「じゃあキャンセルさせずに行かせればいいんだ」とは思いませんでした。
休養が必要な時もあれば、本当にその日の負荷が大きすぎることもある。一方で、本人にやってみたい気持ちがあり、挑戦できそうな日まで全部避け続けることがいいとも限らない。
今のわが家では、行くか休むかの二択ではなく、本人はどのくらいやってみたいのか、今日はどこまでならできそうなのかを一緒に探すことを大切にしています。
児童精神科の先生が教えてくれた『宇宙兄弟』
児童精神科の先生から、『宇宙兄弟』という漫画の話を教えてもらったことがあります。
作中には、宇宙での事故をきっかけにパニック障害を抱えた登場人物が、再び宇宙を目指すためのリハビリに取り組む場面があります。
先生が教えてくれたのは、その登場人物が本当に些細な成功体験を積みながら、少しずつステップアップしていく話でした。
そんなに小さいところからでいいんだ。私には、その例えがとても分かりやすかったんです。
わが家も、本当に小さいところから始めた
長男との外出も、いきなり学校や病院を目標にはしませんでした。本当に小さいところから始めました。
・ウッドデッキに出て日光浴をする
・車に乗ってみる
・車の中で座る場所を変えてみる
・車酔いへの不安には酔い止めも使ってみる
・まずは往復3分ほどドライブする
・できそうなら少しずつ距離を伸ばす
・近所を散歩する
・少し離れた公園まで歩いてみる
・もう少し長い移動にも挑戦してみる
もちろん、こんなにきれいな右肩上がりではありません。
できた日もあれば、今日は無理となる日もある。一度できたことが次にはできなかったり、また小さいステップに戻ったりもしました。
回復メーターなんて見えないので、結局やってみないと分からんのですよ😂
適応指導教室へのチャレンジも同じでした。最初から通うことを目標にするのではなく、まずは挨拶だけ。行って、挨拶して、帰る。それだけでも本人にとっては十分なチャレンジでしたし、その「それだけ」が難しい日だってありました。

これって「系統的脱感作法」なの?
段階的に不安を感じる場面へ近づいていく方法として、行動療法には「系統的脱感作法」という古典的な治療法があります。不安を感じる場面に段階を作り、リラクゼーションなどと組み合わせながら、負荷の小さいものから徐々に取り組んでいく方法です。
わが家のウッドデッキから始まった取り組みも、小さな段階を作って少しずつ経験を増やしていったという点では、こうした考え方に通じる部分があります。
ただし、専門家が治療計画として実施した系統的脱感作法ではありません。わが家で行ったことを、そのまま治療としての系統的脱感作法や曝露療法と呼ぶつもりもありません。
振り返ってみると、先生から教えてもらった「本当に小さな成功体験から」という考え方と、行動療法で研究されてきた段階的なアプローチに重なるところがあった、という捉え方をしています。
医師対応のサービスもあり、心療内科や精神科の受診を迷っている方にも安心です。
継続的にカウンセリングを受けたい方と、目的に応じて使い分けられるのも良いなと感じました😊
定額制で利用しやすく、継続的に心理サポートを受けたい方におすすめです。
医師対応はありませんが、心理師による丁寧なサポートが受けられます😊
もうひとつ先生から教わった「前後の数値化」
児童精神科の先生からもうひとつ教えてもらい、実際に役立ったのが、チャレンジの前後を数値化して振り返る方法でした。
わが家では、不安の強さだけを見るのではなく、こんな項目を記録しています。
| 項目 | 見ていること |
|---|---|
| 行きたい度 | 本人はどのくらいやってみたいのか |
| 行く前の不安・症状 | 予期不安や身体症状はどのくらいか |
| 行った後の不安・症状 | 実際にやってみてどう変化したか |
| 達成したか | 今回決めていたところまでできたか |
| またできそうか | 本人は次回についてどう感じているか |
| 何が助けになったか | 安心材料や役に立った工夫 |
| 一言 | 本人自身の振り返り |
やってみて面白かったのが、「行きたい度」と不安の強さが必ずしも反比例しなかったことです。行きたい度は高い。でも不安も高い。普通に両方あるんです。
これが数字として見えるようになると、親側も「そんなに不安なら、本当は行きたくないんじゃない?」と本人の意思を勝手に解釈しにくくなりました。
「達成したか」と「またできそうか」も別だった
数値化の中でも、私は「またできそうか」という項目がすごく大事だと思っています。
今回の目標を達成できたとしても、またできそうという感覚が低ければ、本人はものすごく頑張ってギリギリ達成したのかもしれません。逆に今回は達成できなくても、次はもう少し小さくしたらできそうと思えているなら、本人の中では単純な失敗として終わっていないかもしれない。
できたか、できなかったかだけでは分からないんですよね。
小さく試して、前後の変化を見て、何が助けになったのかを振り返る。そして「またできそう?」を本人に聞いて、次の一歩を一緒に考える。やっていることは、本人と一緒に自分の予期不安の取扱説明書を作っているような感じです。

少し遠くの観光地まで行けた日
そんなスモールステップを繰り返しているうちに、少しずつ行動範囲が広がってきました。そしてある日、少し遠くにある観光地まで出かけることができました。
歴史を感じる和風建築がある場所で、建築好きの長男も興味を持っていました。
もちろん、その日は朝から元気いっぱいで何の症状もなかった、なんて話ではありません。出発前には腹痛が出て、頓服も使いました。道中も帰りたくなる場面がありました。
それでも現地に着く頃には症状が落ち着き、本人から歩いて見て回りたいと言い出しました。写真を撮ったり、説明を読んだりしながら、自分のペースで観光することができました。
そして帰ってから出た言葉が、
達成感ヤバい。また行きたい
私はこれがすごく嬉しかった。単に移動できる距離が伸びたからではありません。
腹痛が完全になくなってから外出できたわけでも、不安がゼロになってから動けたわけでもない。症状が出ても対処しながら行ってみた。無理なら途中で帰ることもできる状態で、自分なりに進んだ。そして最後に本人から、また行きたいという気持ちが出た。
そこが私には一番大きかったように思います。
「怖くなくなる」だけがゴールではないらしい
不安に対する認知行動療法では、不安を感じる状況に段階的に接していく曝露という方法があります。
繰り返し経験することで不安反応が弱まる「慣れ」もひとつの考え方ですが、現在はそれだけではなく、自分が予測していたことと実際に起きたことの違いから新しい学習が生まれる、という抑制学習の考え方も研究されています。
車に乗ったら必ず具合が悪くなるという経験だけではなく、乗って帰ってこられたこともある。腹痛が出ても対処できたことがある。途中でやめることもできた。
そんな経験が増えることで、以前の不安の記憶そのものを消すというより、それとは別の新しい学習が積み重なっていく、と考えます。
だから、一度遠くまで行けたからといって、次も必ず同じことができるとは限らない。また近所への外出で強い不安が出ることだってある。
それを「前はできたのに、また振り出しに戻った」と考えなくてもいい。今日は今日の「できそう」から、また始めればいいんだと思っています。
「行きたい」と「不安」は、同時にあっていい
長男の予期不安を知る前の私は、知らず知らず二択で見ていたところがありました。行きたいのか、行きたくないのか。できるのか、できないのか。
でも実際は、そんなにきれいに分かれませんでした。行きたい度は高い。でも不安も高い。行けたけれど次はまだ無理という日もあれば、今日は行けなかったけれどまた挑戦したいという日もある。
そのまだらな状態を、そのまま見ればよかったんだなと思います。
そして成功も、目的地まで行けたことだけではない。自分の状態を言えたこと、今日はやめると決められたこと、何が助けになったか分かったこと、次はここまでならできそうと考えられたこと。それぞれが次を考える材料になります。
今も長男の予期不安がなくなったわけではありません。これからも、できたり、できなかったり、少し戻ったりしながら進むんだと思います。
その都度、今日はどこまでならできそうかを本人と一緒に探していく。そう思えるようになっただけでも、私はずいぶん楽になりました。
❀moyu❀
※この記事は、わが家で実際に経験したことと、公開されている医学・心理学的な情報をもとにまとめています。長男の症状すべてを予期不安やIBSだけで説明するものではありません。また、わが家で行ったスモールステップを専門的な治療法として紹介するものでもありません。症状の原因や適切な対応は一人ひとり異なるため、診断や治療については医師などの専門家へご相談ください。