「夜は元気なのに、朝になると動けない」
「不安が強くて、動悸がして、体が言うことをきかない」
体位性頻脈症候群(POTS)や起立性調節障害のある子ども・若者に、とてもよく見られる状態です。
この“朝のつらさ”は、
気持ちの弱さや甘えではなく、身体の仕組みが重なって起きている反応です。
Contents
自律神経と体位性頻脈症候群(POTS)
私たちの体は
・交感神経(活動・緊張)
・副交感神経(休息・回復)
この2つの自律神経のバランスで保たれています。
体位性頻脈症候群(POTS)
体位性頻脈症候群とは?治し方や原因、症状、セルフチェックについて解説 – 一般社団法人 起立性調節障害改善協会
は、この
自律神経の切り替え・調整がうまくいかない状態 です。
特に、
・起き上がる
・立つ
といった体位変換の場面で、
・心拍数が急上昇
・血流が不安定になる
・めまい、動悸、だるさ
・立っていられない
といった身体症状が出やすくなります。
交感神経が過剰に働くと、脳は「危険」と判断する
POTSでは、
体がうまく順応できないため 交感神経が過剰に働きやすい状態 になります。
この身体反応を、脳(視床下部)は
「危険」「強いストレス状態」として認識します。
すると、
脳 → 下垂体 → 副腎
という HPA軸 が作動し、
コルチゾール(ストレスホルモン) が分泌されます。
ここで大切なのは、
・コルチゾールが常に異常高値になるわけではない
・刺激に対して、過敏に・急激に分泌されやすくなる
という点です。
コルチゾールは、不安と似た反応を起こす
コルチゾールは本来、
・体を目覚めさせる
・血糖を保つ
・危機に備える
命を守るためのホルモン です。
しかし、分泌が急激になると、
・心拍数上昇
・体の緊張
・そわそわ感
・胸の苦しさ
といった、
不安と非常によく似た身体感覚 を引き起こします。
そのため本人は、
「不安が強くなった」
「怖くて動けない」
と感じやすくなります。
朝はもともとコルチゾールが高くなる時間帯
人間の体には体内時計(概日リズム)があり、
・夜:コルチゾールは低い
・明け方〜朝:コルチゾールが上昇
というリズムがあります。
これは、
起きて活動するための生理的な仕組み です。
ところが、
POTSや強い自律神経の乱れがあると、
この「朝の上昇」に体が過剰反応しやすくなります。
低血糖が重なると、症状はさらに増幅する
朝は、
・夜間の絶食
・血糖が下がりやすい
・血圧や体温も低め
という条件が重なり、
低血糖になりやすい時間帯 です。
低血糖の症状には、
・動悸
・手の震え
・めまい
・冷や汗
・強い不安感
などがあります。
これらは、
POTSの症状やストレス反応と非常によく似ています。
コルチゾールと低血糖の悪循環
コルチゾールは本来、
血糖を上げるホルモンです。
しかしストレス状態では、
・コルチゾールが急上昇
・血糖が一気に上がる
・インスリンが分泌される
・血糖が急降下(反応性低血糖)
という 血糖の乱高下 が起こりやすくなります。
その結果、
・低血糖症状
・交感神経刺激
・さらなるコルチゾール分泌
という 悪循環 に入ります。
糖尿病ではない低血糖の原因とは | 名古屋糖尿病内科 アスクレピオス診療院 – 名東区の糖尿病専門医
思春期の性ホルモンや季節の影響も、症状を強める要因になる
「朝だけ動けない」状態は、体位性頻脈症候群や自律神経の問題だけで説明できることもありますが、思春期や季節要因が重なることで、症状がより強く出ることも少なくありません。
思春期の性ホルモンの変動
思春期は、エストロゲンやテストステロンなどの性ホルモンが急激に変動する時期です。
思春期のこどもたち | まなメンタルクリニック
この時期はまだホルモン分泌が安定しておらず、・自律神経の調整力が一時的に弱くなる・ストレス反応が過敏になりやすい・身体の違和感を強く感じやすいといった特徴があります。特に、感情や不安を司る脳の部位(扁桃体)は敏感になりやすい一方で、感情を調整する前頭前野は発達途中のため、身体の不調を「強い不安」として感じやすい状態になります。そのため、もともと自律神経が不安定なPOTSのある子どもでは、思春期に入ってから症状が目立つようになることがあります。
季節の影響と冬季うつ(季節性情動障害)
秋から冬にかけては、日照時間の減少によりセロトニン(安心や安定に関わる神経伝達物質)が低下しやすくなります。セロトニンは、・自律神経のバランス・不安の抑制・睡眠や体内リズムにも深く関与しています。このセロトニンが低下すると、交感神経が優位になりやすく、コルチゾールの影響を受けやすくなります。また、寒さそのものも身体にとってはストレスとなり、
・血管が収縮する
・血流が悪くなる
・体温を保つため交感神経が働く
といった変化が起こります。こうした条件が重なると、いわゆる冬季うつ(季節性情動障害)のような状態と似た症状が現れ、朝のだるさや不安感がさらに強く感じられることがあります。
HSC気質がある場合
HSC(Highly Sensitive Child)のように、刺激や体の変化を感じ取りやすい気質がある場合、・心拍の変化・めまい・違和感や不快感といった身体感覚を、より強く、より早く察知することがあります。これは弱さではなく、感じ取る感度が高い特性です。しかし、POTSや自律神経の不安定さがあると、その感受性の高さによって不快感や不安が増幅されて感じられることがあります。
「不安」が原因ではなく、「身体の反応」が先にある
ここまでをまとめると、
・POTSによる自律神経調整不良
・交感神経の過剰反応
・コルチゾールの過敏な分泌
・朝の低血糖
・それぞれが似た身体症状を起こす
これらが 同時に重なることで、
不安感が増幅されて感じられる のです。
つまり、
不安が原因で体調が悪いのではなく、
体の反応が「不安」として感じられている状態
と言えます。

朝だけつらく、昼以降に楽になる理由
・血糖が安定する
・体温が上がる
・血流が改善する
・コルチゾールが下がる
これらが重なり、
昼以降は症状が軽くなることが多い。
だから、
「夜は元気なのに、朝だけ無理」
という状態が起こります。
最後に
体位性頻脈症候群や起立性調節障害の「朝のつらさ」は、
怠けでも、甘えでも、気合の問題でもありません。
身体が必死にバランスを取ろうとした結果 です。
理解されにくい症状だからこそ、
「本人が一番つらい」という前提が、
何よりの支えになるのだと思います。
※この記事は診断や治療を目的としたものではありません。「朝だけ動けない」状態を、本人や家族が理解するための整理としてまとめています。
❀moyu❀